 北米に続いて欧州でも、大きな盛り上がりを見せるのがSUV市場。VWはまずトゥアレグで上級クラスに参戦し、満を持してコンパクトクラスのティグアンを投入してきた。ターゲットはBMW・X3やフリーランダー2だが、欧米の市場ではCR-VやRAV4などの日本勢も直接のライバルとなる。はたして、その実力は前評判どおりなのか?
ティグアンを構成するプラットフォームは、フロントからセンターがパサート、リヤはゴルフをベースとしたもので、リヤサスはパサート4モーション用がベース。実績あるメカで全身を固めるだけに、大きな期待感を抱いて乗り込んだが……それが裏切られることはなかった。
走り出した瞬間に頬を緩ませるのは、「サルーン以上」と言いたくなる快適な乗り心地だ。路面の細かい凹凸も、ドスンとタイヤを突き上げる大きなうねりや段差も、素直にストロークする足がきれいに吸収する。
となると、操安性が犠牲になっていないかが気になる。だが、高速域では安心感に直結する高度な安定性を提供し、峠道ではスポーティカーを追い回せるほどのフットワークを披露するのだから、SUVに乗っていることをつい忘れてしまいそう。少なくとも腰高感は意識させない。
ものを言うのは、ボディ、サスといった基本のよさに加えて、リバウンドバンプストッパー付きダンパーや、オンロード性能に主眼を置く215/65R16タイヤ(銘柄はブリヂストン・デューラーH/Pスポーツだった)を採用したこと。どんな場面でも自然なフィールを提供する出来のいい電動パワステや、ハードな走りでも音を上げない余裕あるブレーキも、気持ちいい走りを構築する重要なファクターになっている。
そして動力性能。1640kgの車重はパサート2.0TSIより200kg重く、逆にCAW型ユニットの性能は200馬力から170馬力にデチューンされているため、「かったるいんじゃないの」と疑う声もあるだろう。でも、28.6kgmの最大トルクは共通で、しかも1700から4200回転の広範囲でピークを維持する設定だから、どこから踏んでも気持ちよく加速する。
新世代のTSIユニットらしく柔軟性も抜群で、6速ATとの相性もばっちりだから、日常の場面での扱いやすさやゆとりも申し分ない。加えて4気筒としては、スムーズさ、静粛性もハイレベル。SUVというと、すぐに荒っぽい走りを連想する人がいるが、ティグアンの走りは並みのサルーン以上に上質。快適性重視の人にも高い満足度を提供する。
では、ティグアンには死角はないか? 挙げるとすればオフロード性能。本格SUVの走りを期待すると、少し落胆するかもしれない。170mmの最低地上高と十分な障害角を持ち、新世代4モーションに代表されるハイテクで武装するのだから、一般のオフ走行は余裕の顔でこなす。だが、オン重視のタイヤの悪路性能はさほど高くなく、ESPのブレーキLSD機能を駆使しても、ハードな状況では駆動力が抜けがち。「オフをガンガン」まで求めるなら、少なくともタイヤを履き替える必要がある。そう、ティグアンはあくまでも、オンロードをメインのステージとするクロスオーバーなのだ。
そこさえ勘違いしなければ、ティグアンは選んで大正解の1台となる。性能バランスの高さ、充実の装備を考えれば、360万円のプライスは間違いなくお値打ち価格。さらには、より以上の高性能を望むファンには、09年半ばには200馬力仕様も追加するというから楽しみだ。
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