ニューMINIの躍進やチンクエチェントの活躍がどれだけの影響があったかは知らないが、ふたたび、いや三たびビートルが復活した。その名は“ザ・ビートル”。ニュービートルの後釜となるだけにどんな名前になるのかと思っていたら、意外にもシンプルに登場してきた。
ただ、この“ザ”という定冠詞には「これこそ!」という意味合いが含まれる。ある意味ニュービートルは初代に対して“ニュー”であること、つまり次世代を暗示していたが、今回は原点回帰、もしくは先祖帰り的な要素が大きいということだ。もちろん、それはあくまでもコンセプトであって中身は最新のハードウエアで構築される。ゴルフで信頼を得た直噴ターボエンジンとDSGと呼ばれるツインクラッチのギヤボックスがここでも活躍する。
では、原点回帰的なコンセプトとはどういうことか。
上の写真を見てほしい。ご覧のように新型はエッジが効いたオトコらしい仕上がりとなった。これはフェミニンな印象が強すぎたニュービートルの反省点でもあって、今度は男性も進んで選べるものにしたそうだ。具体的にはサイドから見て前後のフェンダーとキャビンを3つの半円で描いていた従来型を、フロントフェンダーとキャビンという2つの半円に変更している。そしてそれがニュービートルよりも初代ビートルに雰囲気が似ているポイントとなる。
もっというと、「これこそビートル」というのは、ドイツにいるVW本社メンバーの心の声ともいえなくない。というのも、ニュービートルは大西洋を挟んだアメリカを発祥としたクルマ。カリフォルニアのVWデザインスタジオが提案した「コンセプト1」がきっかけとなる。つまり、本社のスタッフからすれば、海の向こうの出来事だったのだ。
そんなこともあってニュービートルの開発がスタートすると、ハードウエアとの相性が問題となった。結果ドライバーがキャビンのほぼセンターに座り、ダッシュパネルの向こうにフロントピラーが備わるという現象が起きた。慣れればなんてことないのだが、違和感は拭えない。
そんな経験や反省を経てザ・ビートルは生まれた。すでに各国のモーターショーではチョップトップされたEVや、その屋根開き版も出展され話題を集めている。参考出品だったが、東京モーターショーにも楽器メーカー“フェンダー”とのコラボモデルが飾られた。ギターのボディに使われる深いウッドのグラデーションがダッシュパネルにあしらわれる大人っぽい仕様だった。
では、実際に走らせた印象だが、結論からいってこのクルマはかなりいい走りを見せる。小さいながらも力強いエンジンは気持ちよくまわり、アクセルに対してもレスポンスよくクルマを前へ引っ張りだす。車両重量がゴルフの1270kgに対し10kgしか増えていないのが美点だろう。軽快なフットワークはゴルフに負けていない。ちなみに、乗車定員はゴルフ5名に対しこちらは4名。こじつけだが、フル乗車だったらこちらに軍配が上がりそうだ。
ただし乗り心地はゴルフのしなやかさに対し、少々カタめな印象。フロントサスペンションは同じストラットタイプながらリヤサスはトーションビームとなるからだ。
ただ、これも個性。いまどき珍しいくらい細く手のひらにしっくりくるステアリングホイールも含め、このクルマには“ならでは”の味が満載だ。その意味、かゆいところに手が届くような細やかな演出は成功したと言え、個人的には大歓迎だ。
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