近年のセダン系モデルのトレンドは、よりスポーティに、さらにエレガントに。象徴はメルセデスCLSで、4ドアクーペがプレミアムセグメントの注目株になっている。
80年代の4ドアスペシャルティブームを知る日本人には温故知新の印象だが……欧州勢にとっては勢力拡大が見込める期待の新ジャンル。新作パサートCCで、VWもいよいよその市場に参戦した。CCとはコンフォート・クーペの略だ。
最大の見せ場はやはり、セダンの呪縛から解放された美しいスタイル。パサートセダンより全高を50o低く設定するとともに、全長を30o、全幅を35o拡大し、ワイド&ローのフォルムと、クーペに相応しい流麗なボディラインを形成している。
ルックスを見て居住性に不安を持つ人もいるだろうが、着座位置が低めなため前席の頭上高は十二分。後席にも180p級の乗員が座ることが可能で、4ドア車に求められる実用性も盛り込んでいる。用途が限定されがちな2ドアとは違い、便利や快適も兼備するのがCCの強みだ。
そして、洗練度を高めた走りもCC大きな見どころ。全車搭載のアダプティブシャシーコントロールDCCと、3.2から3.6Lに拡大された狭角V6ユニットが、技術的なカギを握っている。まずは乗り心地。
DCCには3つのモードが設定されるが、「コンフォート」を選んだときの足の動きはしなやかで、17インチ45タイヤの重さや硬さを伝えない上質な乗り心地を提供してくれる。タイヤの打音は少し耳に届くが、荒れた路面でもゴツゴツ、ブルブルとは無縁だから、上級サルーンらしい快適なドライブが満喫できる。
そして、クーペらしいスポーティな走りを楽しむ際に、ピタリとはまるモードが「スポーツ」。ダンパー減衰力をハードにセットするのにあわせて、電動パワステの操舵力も重めの制御とするため、走り全体の印象が明確に変化するのが特徴だ。
速度を上げていくと、「コンフォート」や「ノーマル」では操舵に対する反応の遅れが気になってくる。が、姿勢変化がグッと抑制される「スポーツ」では、ペースを上げるほど俊敏さやダイレクト感が際立ってくる感じ。出来のいい足のおかげで、大柄なボディをまるで意識することなく、峠道をスポーツカー並みの速さで駆け抜けることができた。
また、中間の「ノーマル」を選べば、より幅広いシーンでまんべんなく高い満足度を提供。「快適」も、「走りの安心感や操る歓び」も譲らないという姿勢は、4ドアクーペという欲張りコンセプトを持つモデルに相応しい。さらに、CCはパンクに強い安全タイヤも導入している。
で、締めくくりは動力性能。3.6Lの横置きV6は北米パサートで投入された心臓だが、パワーを北米用の280から299馬力に強化して搭載。DSG、電制4駆との連携も素晴らしく、迫力ある加速と高い静粛性、4駆本来の確かなトラクションや安定性をひとつにまとめあげている。速さ、ゆとり、上質にこだわるならV6 4モーションがお薦めだ。
とはいえ、2.0TSIと6速ATがもたらす性能、快適性も十分以上。少しの粗さを残す加速時の回転フィールやサウンドに4気筒を意識させられるが、そのほかに弱点はない。むしろ、軽快な身のこなしはFF+4気筒ならではの美点なのだから、さりげなく、軽やかにCCを楽しみたい人には積極的にお薦めできる。
フェートン未導入の日本市場では、CCがVWセダン系のフラッグシップ。その期待を裏切らない華やかさ、そして上質な走りが光るポイントだ。
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