フォルクスワーゲンのパサートといえば、知的なユーザーによる合理的な選択というような印象がある。
クルマはけっして出しゃばりすぎず、淡々と、しかし正確に仕事をこなす、「よくできた道具」に徹するような潔さが感じられるのだ。
それは現行のセダンとヴァリアントでも同じ。機能性や品質、さらには効率性の向上を成し遂げながらも、それらをアピールしすぎることはなく、どちらかと言えば平然とクールなままでいる。
ところがどうだろう。このたび登場したパサート オールトラックは少し様子が違うようだ。ひと目で4WDを意識させるクロスオーバー的なデザイン。このニューモデルは、スポーティな走りや高いユーティリティを全身から強く訴えかけてくる。けっして派手ではないが、そこはかとなく強い存在感を見る者に印象づけるデザインが与えられているのだ。
実際にステアリングを握ってみると、オールトラックの走りは最近のフォルクスワーゲンの例に漏れず、スムーズな変速に低燃費と申し分ない。しかし、パワーユニットは同じパサートのセダンとヴァリアントに積まれる1.4L TSIエンジン(122馬力)ではなく、ゴルフGTIに積まれる2.0L TSIエンジン(211馬力)となっている。
比べれば100馬力近いパワーの差は、もちろん明らかな「ゆとり」を生むのだが、何よりもエンジンのスポーティな性格がオールトラックに積まれても生きているのが魅力だ。特筆すべきは出だしの鋭さで、アクセルを踏むとエンジンは素早く呼応し、けっして小さくはない1.7トン弱のボディを瞬く間にクルージングスピードに乗せてしまう。また、低回転から発生される強力なトルクにより、通常はアクセルを軽く踏んでいるだけで、DSGがスルスルッと変速ショックもなしにつないでいくのだが、しっかり踏み込むと、今度は
エモーショナルなサウンドとともに、予想以上の鋭い加速を披露してみせる。今までの滑らかさは一転して「キレ」に変わり、それがダイナミックな走りとなって、ドライバーの五感に強く訴えかけてくる。
そして、4駆としてのポテンシャルになるのだが、搭載される4WDシステム「4モーション」の走破性は高く、凸凹の路面、ダートに雪道、あらゆる状況でも力強さを見せる。そしてオールトラックでは更なる進化がはっきりと感じ取れる。今回はたまたま雨に濡れた路面を走る機会に恵まれたのだが、豪雨のなか、まるでレールに沿って走るかのごとき安定感を示してくれた。走りの滑らかさと安定感は一層増し、ドライバーは大きな安心感に包まれながら、オールトラックのステアリングを握っていることの幸運を感じるだろう。車内はつねに静寂に包まれ、精巧なメカが間違いのない働きを見せる。すべての道を制する「オールトラック」の名にふさわしい頼もしさを披露してくれるのだ。
また、急勾配を下るときにブレーキを自動制御するヒルディセントアシストのほか、EDSやXDSといった先進の走行支援システムが搭載されるなど、オールトラックのパフォーマンスは、見た目の頼もしさを裏切ることはない。じつに懐の深い走りを身につけているのだ。
インテリアは、精度の高い仕上げが心地よく、ナパレザーのシートが疲れ知らずの快適なクルージングへと誘ってくれる。
このパサート オールトラック、SUVでは気後れしてしまうが、ワゴンよりはもっとスポーティなモデルを望むユーザーには強く薦めたい。
|