従来のユーザーからの乗り換えをうながしつつ、新規顧客を奪い合うライバルとの熾烈な競争を勝ち抜くため、多くのクルマがフルモデルチェンジの際にボディサイズを拡大して内容を充実させてきた。だが、それによって得られるものだけでなく、少なからず失われるものがあったのも事実。
たとえば小型車にとって、繁華街や狭い住宅街での取りまわしや駐車のしやすさといった使い勝手は、ユーザーにとって大事な性能のひとつだからだ。さらに、従来よりも車内を広くして装備を豪華にすれば必然的に車重がかさみ、結果として燃費性能にも悪影響を及ぼす。これをハイテクでカバーしようとすると、今度は製品価格にしわ寄せがくる。
これまで20Xシリーズを世界で累計1500万台販売してきたプジョーは、新しい208を生み出すのに際して、先代モデルよりもボディサイズをダウンサイジングするという大転換をやってのけた。
全長で85mmものサイズダウンということで気になる室内空間だが、設計上の工夫によって、従来よりむしろ拡大しているというのだから文句がない。さらに積極的に軽量化技術を取り入れることで、従来に比べて車重を100kg近く減量していることも見逃してはいけないポイント。エンジンの出力が同じならば、軽いクルマのほうが走りがよくて燃費に優れるからだ。これにより、5ドアの4速AT車でも、13・4km/L(JC08モード)、新開発の1.2L3気筒エンジンを搭載する3ドア5速MTでは19km/Lという優れた燃費性能を実現している。
208のラインアップは、3ドアと5ドア合わせた4グレード。今回のテストドライブでは、すべてのバリエーションを一度にテストできたため、それぞれの特徴をはっきりと捉えられた。
まずは1.2L3気筒エンジンを搭載する3ドアのアリュール。199万円という価格が魅力のベーシックモデルだが、小排気量ながら小さく軽くなった車体のおかげもあって非力さはさほど気にならず、5速MTとの組み合わせで運転が楽しい。まるでスニーカーのような軽快感が、3ドアのスポーティなスタイルにマッチしている。気がつけば相棒のような存在になっているタイプだ。
続いて、もっともポピュラーな存在になるであろう5ドアモデル。これは装備の違いによって、プレミアムとシエロに分かれており、シエロには開放感のあるパノラミックガラスルーフが標準で備わる。
パワートレーンを先代から受け継ぐこの5ドアこそ、軽量ボディの恩恵をもっとも強く受けているかもしれない。先代207でレベルアップした走りのしっかりさを受け継ぎつつ、新型では小型車の魅力である軽快感、さわやかさが際立つからだ。
開発にあたってタウンユースや女性ドライバーのニーズを大切にしたと語るとおり、前後オーバーハングの短さと運転席からの見切りのよさが相まって街中ではストレスフリー。
室内の仕立ても上等で、デザインや表面処理の巧みさは同クラスの国産車とは一線を画す。窓ガラスの角度を立たせたり小径ステアリングを採用したことで、シートに収まった際の開放感も十分以上。これにはシエロに備わるパノラミックグラスルーフも大きく貢献している。
実用車でもオシャレに楽しく乗りこなしたい、そんなユーザーの気持ちにこたえてくれる208。今後バリエーションも充実していくとのことで、プジョーファンならずとも注目の存在となるだろう。
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