かつてトラック由来の簡素なモデルが多かったSUVセグメントに、高級乗用車の快適性を持ち込むことでプレミアムSUVというジャンルを生み出したのが、1997年に登場したメルセデス・ベンツMクラス。
極限でのオフロード性能はGクラスに譲るものの、ほとんどのユーザーにとって恩恵が大きい都市部での扱いやすさ、オンロード性能や快適性を強化するというMクラスのコンセプトは、北米を中心に瞬く間に世界中に受け入れられ、多数のフォロアーが現れた。
その後、プレミアムSUVセグメントが成長していくなかで、メルセデスはMクラスを中心に、フルサイズセグメントにGLクラスを、コンパクトセグメントにGLKを投入し、ラインアップを拡大してきた。
そして今回のフルモデルチェンジにて、3世代に進化したMクラス。直接のライバルである欧州勢を見渡すと、ボディサイズ及び価格が拮抗するBMW X5が07年登場。アウディは、Q5が車格的に少し下のポジションとなり、価格的に競合となるのはボディがひとまわり大きなQ7。こちらは06年登場だから、Mクラスはライバルに対して、しばらく先行者として有利な立場を取ることができるわけだ。
では、その進化について分析してみよう。まず、車両全体のコンセプトについては、先代モデルのそれを踏襲。すなわち、悪路走破性はもちろんのこと、オンロードでの走行性能、快適性、そして環境性能について高いレベルを実現するというもの。
具体的には、ボディサイズは先代とほぼ同等。スタイリングについては、基本的なキャラクターを受け継ぎながら、より洗練された上質な雰囲気を獲得している。SUVのタフさに加え、メルセデスとしてのエレガンスが一層極まった印象だ。
そのインスピレーションは室内においても変わらない。AMGスポーツパッケージ(65万円のオプション)を備える試乗車両は、ステアリングとシートに高品質なナッパレザーを採用し、ウッドやルーフライナーにも専用の素材を使用しているため、特別感は一層だ。それらを差し引いても室内部品の組み付け精度は高く、素材も上質。サルーンからの乗り換えでも満足度は高いだろう。
新型のパワートレーンは、3.5Lの直噴ガソリンエンジンと3Lディーゼルターボ、そしてAMG63用5.5LV8ツインターボの3本立て。トランスミッションはともに7速ATで、全天候型フルタイム4輪駆動システムと組み合わせられる。
試乗したのはガソリン仕様で、静かさと乗り心地のよさが印象的。第3世代となるこの直噴エンジンは、アイドリングストップなどの低燃費技術との組み合わせによって、従来モデルより出力・トルクともに向上しつつも、燃費が10・4km/Lと先代比で42%向上している。
さらにドライブフィールの向上も目覚ましい。フットワークは接地感に優れ、タウンスピードから高速走行まで快適なレンジは幅広い。サルーンやクーペに比べれば動きにマスの大きさを感じるが、クルマが運転手の意に沿って動いてくれるから、実際よりも小さなクルマを操っているように錯覚するほどだ。
悪路走破性について試すことは叶わなかったが、スイッチ操作ひとつでクルマ側があらゆるシチュエーションに対応し、特別なスキルを必要とせずとも乗り越えてしまうというのだから、なんとも心強い。
あらゆる領域でゆとりをもたらす新型Mクラスは、現在最高峰のSUVであることは間違いない。
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