伝統を重んじるメルセデスブランドのなかにあって、異彩を放っているのがCLSクラス。「4ドアクーペ」という高級車の新ジャンルを提案し、メルセデスのファン層を拡大する原動力になったのは記憶に新しい。でも……CLSの挑戦はそこに止まらない。2代目の投入から2年足らずというこの時期に、新機軸のシューティングブレークを追加し、高級車の世界に新風を吹き込んだ。
そもそもシューティングブレークは、狐狩りなどのハンティングを愛好する英国貴族の間で、60年代ごろに流行した伊達なクルマ。セダンではなく、クーペをベースに実用的ラゲッジルームをプラスしたのが肝で、ステーションワゴンとは非なる存在だ。現代風のアレンジを加え、その伝統を今に再現したのがCLSシューティングブレークだと言える。
カッコよさと個性は、母体となった4ドアクーペを凌ぐほど。しかも、レジャーユースでも頼りになる大きなラゲッジを備え、後席の実用性や快適性もグッと高まっているのだから、注目が集まるのは当然だろう。
ならば、乗り味はどう変わったのか? V6の「350」をベースに話を進めると、ボディの形状変更とセルフレベリング付きリヤエアサスの標準化などにより、車重が80kg増加している。フットワークや乗り心地が重厚な方向に変化したのは、それが理由と考えていいだろう。
とはいえ、安心とリラックスをより高めた走り味は、「ツアラー」というシューティングブレークのキャラを考えれば歓迎できるもの。3.5L直噴のV6ユニットが生む性能や静粛性は満足レベルにあり、その気になればスポーティな走りも楽しめるのだから、スポーティな容姿に惚れてシューティングブレークを選んだファンをも落胆させることはない。
そしてV8モデル。「63AMG」の内容に大きな変化はないが、408馬力/61・2kg mの4.7Lツインターボを積む「550」は、4マティックを組み合わせたこと(CLSでは初)が大きな見どころとなる。
賢い電子制御4駆メカは、スノードライブなどのタフな状況で威力を発揮するだけでなく、強大なV8ツインターボパワーをより有効に活かしたり、安心をもって解き放つことにも貢献するのだから、積極的に4駆の「シューティングブレーク版550」を選ぶ人も多いはずだ。
4ドアクーペと同様に、「550」および「350AMGスポーツパッケージ」はAIRマティックサスが標準だから、乗り心地の上質さも保証つき。「コンフォート」をセレクトした状態では、19インチタイヤの存在を忘れさせるしっとりとした乗り心地と、しとやかな身のこなしを提供してくれる。高級なサルーンという視点で見ても、CLSシューティングブレークの完成度は高い。
では、「スポーツ」に切り替えるとどう変わるのか? エアサスと電動パワステの連携制御によりシャシーはグッと引き締まった印象となり、大胆なドライビングに対してもきちんと反応を示すようになる。4ドアクーペと比べるとリヤの追従が気持ち遅れる感覚で、フットワークは落ち着いた方向に修正されているが、それは持ち味の違いというもの。
敏捷で正確な動きを好む人には4ドアクーペ、重厚かつ落ち着きのある走り味を好む人にはシューティングブレークが向く。スタイルやユーティリティの違いだけでなく、乗り味の個性で2つのCLSのチョイスを決めるのもおもしろい。いずれにしても、シューティングブレークの追加で、CLSの魅惑の世界は一段と華やかに、そして魅力的になった。
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