2011年にフランクフルトモーターショーで発表された新型パンダが、いよいよ日本でも発売となった。初代から数えると3代目となるこのクルマは、実用性を備えたAセグメントのコンパクトカーである。
“実用性を備えた”という理由は、基本コンポーネントをフィアット500やイプシロンと共有するから。3兄弟のなかでユーティリティにもっとも勝るのはこれだ。具体的には、従来比で室内長が20mm延長され、カーゴも10L拡大されている。パッケージングから見てもわかるように天井高も兄弟車のなかでいちばん高く、さらにリヤシートを分割可倒すればカーゴスペースの自由度は増す。
そう考えると、500では積載性に問題ありと考える人にはオススメ。実際に500を長期レポートで半年以上乗っていたが、クルマ2台体制で成立する部分は大きい。もし1台ですべてをまかなうなら、もう少しスペースはほしいところである。
もちろん、メーカーはそうした声に応えるためこのパンダを開発した。その意味では500からの乗り換えも実際にありそうだ。ちなみに、ヨーロッパには500Lというモデルもある。プントベースのそれは500よりも600mm長い。イメージ的にはMINIに対するクロスオーバーといったところだ。クロスオーバーの成功を横目で見て開発したのかは知らないが、サイズもそれに近い。大衆車メーカーであるフィアットだけに、その辺は細かくマーケット分析する必要があるのだろう。
さてこのパンダだが、日本仕様は“EASY”のワングレードのみというから潔い。エンジンは500でお馴染みの直列2気筒8バルブ+インタークーラー付ターボのツインエアのみ。その意図は、初期投資を少なくしプライスを抑えるといったところだろう。ただ、今後はわからない。初代パンダがそうであったように、本国にはパンダ4×4という4WDモデルもある。う〜ん、この辺はなかなかステアリングを握る機会がないだけに興味は募る。
では、実際に走らせた感想だが、ツインエアもそうだが、まずデュアロジックと呼ばれる5速シーケンシャルトランスミッションに驚いた。前述したようにこれまで同ギヤボックスを積んだ500の試乗はもちろん、長期レポートも行ってきたが、こんなにスムーズでナチュラルなものはなかった。不快な変速時のギクシャク感はなくなり、いたってシームレスな動きとなっていた。これなら助手席の人に、「もしかしてMT?」なんて思われなくてすむ。
また、ツインエアもそのオールドスクールな味は残しつつ完成度が高まった。加速時のドッドッドという単気筒風なテイストでドライバーの心をくすぐりながら、加速後は滑らかにクルマを走らす。いやはやオヤジ世代にはたまらない仕上がりである。もっといえば、スタート&ストップシステムも好調。再スタート時の振動が大幅に減り、かなり自然な作動となっている。
考えてみれば、こうした技術進歩はこのクルマに限ったことではなく、供給元であるフィアット・パワートレーン社の進化にほかならない。だが、冒頭に記した“実用性を備えた”という面からすると重要な要素であることは間違いない。
乗り心地は15インチタイヤということもあり、ゴツゴツしたところなく走る。ハンドリングも若干デジタル感は残るが、熟成した電動パワステが気持ちよくコーナーを駆けさせてくれる。あとはこいつをどう使いこなすか。カスタムベースにも、もってこいの1台に思える。
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