コンパクトカーにおいて、あのチンクエチェント・バイ・グッチ以来の衝撃的なモデルが現れた。DS3カブリオである。このクラスのクルマのデザインも画一化しつつある傾向のなか、こいつはしっかり個性を発揮する。シトロエンらしいモード感がガッツリ詰められているのだ。
注目したいのは、そのルーフ。カブリオといえどもピラーを残したオープントップが採用され、そこに彼らならではのこだわりのキャンバストップ地が取り付けられている。
で、そのデザインがすばらしい。とくにDSの文字をモディファイしたDSモノグラムは傑作だ。まるでフランスやイタリアの老舗メゾン系ブランドの上質なバッグのような柄をイメージさせる。日本車はもちろんドイツ車にもできない芸当だろう。鮮やかなブルー地のルーフもいい。
これらはボディカラーとのコーディネイトが決まっている。その面ではよりビスポークな世界を求めたいところでもあるが、そこまでの対応は酷というもの。車格と価格を鑑みればこれで上出来。現状でもカタログモデルからどれを選ぶか難しい。
そんなルーフは実用性も高い。時速120kmまでならスイッチひとつで開閉操作ができる。時間は約16秒。ただ、これでカブリオと言えるのかという声も聞こえてきそうだ。やはりオープンエアとしては開放感が足りないのでは、と。
だが、DS3カブリオ同様ピラーを残すポルシェ911のタルガトップを所有した立場から言わせてもらうと、この手の方が開閉頻度は高まる。開けて走っていても周りからはハッキリとわからないからだ。じつはそこがミソ。通常のオープンカーのネガティブ要素は周りの視線を集めてしまうこと。それがこのタイプでは周囲に気づかれずにオープンエアモータリングを楽しめるのだ。よくよく考えると都合のいい話である。
そして走り出せば風の巻き込みも気にならない。前方にディフレクターが出るので快適なキャビンを保てる。もっと言うと、このクルマは良好なドライブフィールを提供してくれる。運動性能の高さはクローズドモデルで実証済みだ。今回ルーフのデザインや実用性をチェックしながらも、じつはその走りに心を奪われていた。試乗コースにワインディングを選んだのもそんな理由となる。
エンジンはご承知のとおりの1.6L直4DOHCターボが搭載される。最大トルクは156馬力だが、体感は数値以上。理由は最大トルクを1400回転という低い領域から発生するからだ。出だしでもたつくどころか速すぎるとすら思える。トランスミッションは6速MT。広範囲で使える2速はじつに頼もしい。
そしてこのパワーソースを路面に伝える駆動力と足のセッティングがこのクルマの醍醐味。ステアリングの操舵角に対する素早い反応や追従するボディの一体感はクルマ好きを納得させる仕上がりだ。厳密に言えば当然クローズドよりカブリオはボディが緩くなるが、それもまったくもって許容範囲。ワインディングをひらりひらりと駆けるなかでネガティブ要素は感じられなかった。
そんなDS3カブリオだが、ひとつ問題があるとすればMTしかないことだろう。屋根が開くとか言う前にターゲットは狭まる。だが、そこが逆に魅力でもある。それだけ自分だけのクルマとしてアピールできるし、信号待ちでかぶることもない。それにそもそもフランスじゃMTで乗るのが常識。それだけ本物嗜好というわけだ。価格の311万円も現実的。余裕があればセカンドカーとしてぜひ手に入れたい1台である。
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