一度植え付けられたイメージはなかなか払拭できない……。新しいキャデラックに乗るたびそんなことを実感する。90年代からずっとウォッチングしてきた身としては、悲しい現実だ。いまだにキャデラックに試乗したという話をすると、「相変わらず、乗り心地はフワフワしているの?」と聞かれる。もうずいぶん前からそんなクルマつくってないのに……。
ATSはメチャメチャいいクルマだ。それは乗ってすぐにわかった。稀に少し乗っただけでクルマの善し悪しがわかるのか? という質問を投げられるが、それはケースバイケース。ただ、このクルマに関しては自信を持っていえる。“いいクルマ”であると。
具体的にはまず2つ挙げられる。高いボディ剛性と気持ちのいいハンドリングだ。これは現在、日本車を含め各メーカーが必死に取り組んでいる部分。とくにドイツ車はここに関して一日の長があるが、ATSはそれに負けないクオリティを持っている。いってしまえば、ドイツ車の中でもトップブランドの屋台骨となるモデルに匹敵する仕上がりを見せる。自社のホームページで「ニュルブルクリンクで8分28秒09!」と大きくアピールしたくなるのもわからなくない。
言わずもがなだが、キャデラックの開発は初代CTS以降ドイツのサーキット、ニュルブルクリンクで行なわれている。荒れた路面や急激な勾配、高速&タイトコーナーが備わるそこで、テストを繰り返し行なってきたのだ。なので、現行CTSも走りはかなりいい。個人的には申し分ない出来映えと思っている。が、ATSはさらにその上をいく。各部は締め付けられ、さらに一体感のある動きを実現した。
その理由は新しく設計されたモノコック型フレームに基づく。昨年のデトロイトモーターショーでお披露目されたものだ。超高張力鋼板とアルミの複合フレームで、まさに適材適所といった素材の分配が行なわれる。もちろん、オールアルミ構造には劣るのだろうが、クルマの価格帯を鑑みれば、かなり大胆なことをしでかしたといえる。先日のNYショーで新型CTSを拝見してきたが、そいつもまたこのフレームを上手に利用していた。
では走った印象だが、2Lターボというキャデラックの歴史上ありえないダウンサイジングされたエンジンが、こいつには積まれる。これには賛否両論あるだろうが、そんなことはどうでもいい。ジャガーXJにも同排気量はあるし、かつてトレンドセッターだったキャデラックには当然のことだ。
しかも、このレスポンスがかなりいい。スッと自然な感じでクルマを前へ押しやるところはなかなかジェントル。でもって、高回転でグッとスポーツテイストが顔を出す。6速ATもじつにスマートだ。ただ、パドルシフトがなかったのは残念。こうなるとその存在が必要となる。
ステアリングは街中では軽く、高速ではしっとりとしたフィールが出てくる。この辺のチューニングはドイツ車系を意識したのではと感じた。積極的に左右に振っていっても希薄なところは見受けられない。
それから驚いたのは静粛性。スポーティになってもそこはアメリカを代表する高級車。フロントピラーの風切り音もフロアに入ってくるロードノイズもうまく処理した。この点は彼らの意地かもしれない。
といったATS。案ずるより産むが易しって感じで、いちど試乗して体感してみてはいかがだろうか?
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