走りはスポーティだが、決して体育会系のノリではなく飛び切り洗練されている・・・・・・。そういったアウディのブランドイメージに、フル4シーター・クーペのA5はじつにシックリとはまるモデルだ。
日本導入となったのは3.2クアトロのみ。車両重量は1670kgとそれなりにあり、タイヤも18〜19インチと大きめだが、走りだした瞬間から乗り心地に上質感がある。ちょっと前までのアウディは、圧倒的に操縦安定性が高い反面、低速域でゴツゴツとしたり、凹凸乗り越え時に上下動が残って揺さぶられたりしたものだが、新しい世代のシャシーだったらそんなことはない。このA5のプラットフォームは、間もなく日本導入が開始される新型A4と共有することを前提として新開発されたもので、乗り心地と操縦安定性のバランスが抜群に高いのだ。
その秘訣は、ディファレンシャルをエンジン直後に配置して、フロントアクスルを前進させたことにある。これによって前後重量配分が良好になり、ロングホイールベースを達成することにもなった。
もちろん、ボディを軽量・高剛性に仕上げるなどあらゆる面で技術レベルは高いのだが、ドライブトレインのレイアウトがシャシーのレベルアップへ大いに貢献していることは間違いない。FF、もしくはFFベースのクワトロというアウディが持っているノーズヘビー感を払拭してしまうのだ。
コーナーリングではフロントの容量が大きい印象で、舵の効きがしっかりしている。タイトコーナーを限界付近で走っていたとしても、さらに回り込みたいときはステアリングを切り増せば反応してくれる。これも良好な重量配分の効果だろう。また、クワトロシステムはイニシャルの前後トルク配分が40対60とされており、回頭感も自然。走り始めの第一印象が洗練されているからといって、スポーティ性が落ちたわけではない。むしろその逆でハンドリングまでレベルアップしているのだ。
エンジンはお馴染みの感がある3.2LV6だが可変バルブリフト機構を備える新設計ユニットで、とくにアイドリングや低負荷時の燃費が向上しているという。1500回転以下でも明確なトルクを感じさせるフレキシブルな性格で扱いやすいことこのうえない。ただし、ライバルと目されるBMW335iクーペの直6ほど官能的とは言えないだろう。もっとも、それを除けばプレミアム感はA5に分があり、シャシー性能でも均衡しているように見える。ぜひガチンコで対決させてみたいものだ。
もうひとつ、A5にはアウディ・ドライブ・セレクトという武器がある。これは、ステアリングのギア比や重さ、ショックアブソーバーの減衰力、エンジンの反応、ATシフトポイントなどを統合制御するもので「コンフォート」「オート」「ダイナミック」の3つに加え、それぞれを好みに設定できる「インディビジュアル」というモードも備えている。短い試乗では最適設定をさぐることが適わなかったが、オーナーになっていろいろ試すのは楽しそうだ。
A5の試乗でもっとも印象に残ったのは「クーペらしい上質な乗り味」だったが、これは新世代アウディの持ち味であり、メルセデスやBMWを慌てさせるほどにレベルは高い。A4を含め、今後のモデルにも期待がもてるはずだ。
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