世界の中心でクルマを作る

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SPECIAL COLUMN MADE IN USA
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いつの時代も輝き続けたアメリカのモノ作り精神

 アメリカ車なんて派手なだけで、中味は時代遅れの古臭い機械だ。そんな風に今でも思っているひとが多いらしい。そういうひとはヨーロッパ車こそが優速のマシンだと思っているのだろう。アメリカ車を愛好するひとたちは、何故かロジックで物を語るのでなく情緒やセンスという表層の感覚で生きる傾向が強く、アメリカ車の魅力もその方法で発信した。そのこともアメリカ車に対する温度感の低い目線を作ってしまった一因になっているのだろう。

 だが、それは誤解なのだ。アメリカのクルマ作りは、たしかに剛腕で威勢のいいところはあるけれど、その実、極めてロジカルだったりもする。そもそも現代の自動車エンジニアリングの原型はアメリカが先導して作り上げたと言ってもいいのだ。

 ご存知のように自動車が誕生したのは19世紀末のドイツであり、ベンツとダイムラーがその先陣を切った。しかし、たった10年後の20世紀に入るころ、当時は世界に冠たる技術先進国だったフランスが王座を奪う。フロントエンジン後輪駆動という形態はドイツでなくフランスで誕生し、それがドイツに輸入されたものなのだ。フランスは1910年代にはV8やDOHC4バルブやアルミブロックまでものにしていた。だがフランスの王位は短かった。新たに王座についたのはアメリカだった。

 アメリカはある意味で自動車の革命を成し遂げたのだ。20世紀の初め、欧州では自動車は大金持ちの遊び道具だった。しかし領土が広大なアメリカではだれもが自動車を必要とし、そこに需要があったのでアメリカ車は大衆に買ってもらう商品として発展することになった。その転換の象徴が有名なT型フォードである。

 T型はベルトコンベア生産方式で廉く大量に作られて、広く国土に行き渡ってアメリカ人のアシになった。じつは左ハンドルはT型がデフォルト化したのだという。それまで自動車のハンドルは左右てんでバラバラだった。そのときT型が左ハンドルで作られてアメリカ中に行き渡り、ついにはヨーロッパにも渡って増殖した。そのために左ハンドルがスタンダードとなったのである。

 大衆をお客としたアメリカ車はマニアでなく大衆が望むものに敏感だった。ATやパワステはもちろん、キーを捻るだけでエンジンが掛るスターター機構も、現在の基礎技術となった慣性主軸方式のエンジンマウントも、みなアメリカが戦前に発明したものである。エンジン性能の向上には燃料のオクタン価を上げることが必須だが、その高オクタン燃料をものにしたのも彼らだった。

 デザインもアメリカが先を行った。恰好の流行の話ではない。デザインという仕事を進める方法論の話だ。

 そもそも大量生産品のカタチを造形する工業デザインという観点は、大衆に大量生産品を売るビジネスが真っ先に成立したアメリカで生まれたものだ。その工業デザインの初期の巨人がレイモンド・ロウィ。彼は機械が必然的に要求するアウトラインの上に、粘土を盛って削ってその形を工夫する方法を編み出した。ミッドセンチュリーモダンの量産家具や冷蔵庫などの家電は、その方法論で生まれたデザインである。その工業デザインの手法をGMは50年代に取り入れてルセーバというデザイン試作車をつくった。そしてジェット戦闘機のモチーフを盛り込んだこの試作車をショーで公開し、好評を受けたのを確認してからそのデザイン要素を生産モデルに移していった。こういう現代のデザインの進め方はこのときアメリカが創造したのだ。

 こうしてアメリカが世界をリードして、戦後に自動車づくりを始めた日本はそれを追いかけた。欧州も第二次大戦後にようやく自動車が大衆に普及するようになってアメリカ式の方法論を少しづつ導入するようになった。そうして70年代を迎えたとき石油ショックやベトナム戦争が起きてアメリカを構造不況が襲い、アメリカ車は失速した。アメリカ車に対して我々に芳しくないイメージが植えつけられたのは、日本車の成長とアメリカ車の失速が重なった70年代から80年代にかけての、その時代の記憶が原点になっている。それはアメリカの大衆が自動車に飽きてしまった時期だったとも言える。

 だがアメリカは復活した。90年代を迎えて日本がバブル崩壊で失速し、欧州もベンツW140系Sクラスの空振りで上昇拡大志向に陰りが見え始めたころ、アメリカは自分たちがやはり自動車が大好きでしょうがないことに気づいた。そしてPTクルーザーやC5系コルベットを皮切りに、新時代の魅力的なクルマを次々に作り始めた。300C、マスタング、ダッジ・チャージャー……21世紀にかけて誕生した名作再現モデルは、それを視覚面で具体化した商品である。

 そしてアメリカは表層だけでなく中身のエンジニアリングでも復権をかけて力作を生み出した。それがC6系コルベットだ。打倒ポルシェ911を目標に開発されたC6は実際にこれを達成し、高性能型のZRー1はニュルブルクリンクでポルシェを含む世界中の高性能車の計時を凌駕するレコードを叩きだした。現行C7系は反撃をねらう欧州勢を返り討ちにすべく磨き上げられた最新作。速さだけではない。フォードは欧州でダウンサイズ過給が最新の技術トレンドとなるのを見るやいなや、誇りだったV8を直4ターボに換装するという大転換をしてのけた。あの巨大なトラックも今やV8でなく直4ターボで走るのだ。今ごろV6に換える直4ターボを開発している日本なぞ真っ青の大ナタだ。

 そんな風にアメリカは自動車の歴史を牽引してきた。アメリカ車を笑う者は、その真実を知る者に笑われてしまうのである。

PROFILE
自動車ジャーナリスト
沢村慎太朗
研ぎ澄まされた感性と鋭い観察力、さらに徹底的なメカニズム分析により
クルマを論理的に、そしてときに叙情的に語る自動車ジャーナリスト。
今でも燦然と輝く歴史の中の宝石たち
1908年 Ford Model T
1934年 Chrysler Airflow
1951年 Buick LeSabre
1971年 Dodge Charger RT
2014年 Chevrolet Corvette Z06
①1908年 Ford Model T
②1934年 Chrysler Airflow
③1951年 Buick LeSabre
④1971年 Dodge Charger RT
⑤2014年 Chevrolet Corvette Z06
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