911をつくり続ける理由

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特集

911をつくり続ける理由

激動ともいえるスポーツカーの歴史を生き抜いてきたポルシェ。
そんな世界に冠たる高級スーポーツカーブランドが心血を注ぎ、
大切に育んできたモデルが「911」。現在に至るまで純粋に、
そして一徹につくり続けられている911の秘密に迫る。
沢村慎太朗

それは数字で語れない絶対的な存在である

「RR」レイアウト
スポーツモデルとしては稀な「RR」レイアウト。エンジンをボディ後方に搭載し、後輪で駆動するというスタイルは、911の重要なアイデンティティとして今日に至るまで受け継がれている。

 20世紀にポルシェといえば911だった。83年前に設計事務所として立ち上がったポルシェは、第二次大戦後に自動車メーカーとして旗揚げをして356を送り出し、50年前にそれを911にフルモデルチェンジした。以降、彼らは水平対向4気筒ミドの914や直列4気筒FRの924、944、968、そしてV型8気筒FRの928をラインアップに並べたが、それでもポルシェといえば911。911はポルシェとイコールだった。バブルのころ外車の知識を増やしていった女の子たちはポルシェを「ポルポル」などと呼んだが、それは928でも944でもなく、911だけを指していた。

LEGEND OF 911
才能あふれるひとりのエンジニアが
自らの理想をカタチにした「ポルシェ」。
その歩みはまさに「911の歴史」でもあった。
1875
ポルシェ創業者フェルディナンド・ポルシェがマッフェルスドルフ(現在のチェコ西部)に生まれる。
ポルシェ創業者
1906
フェルディナンドは早くから才能を発揮し、若干31才でアウストロ・ダイムラーの技術部長に就任する。
1909
長男フェルディナンド・アントン・エルンスト・ポルシェ(フェリー・ポルシェ)が誕生する。
1931
フェルディナンドは、シュトゥットガルトに自身のエンジニアリング会社、ポルシェKGを設立、大手メーカーの車両開発を行う。
1934
ポルシェKGが政府から国民車(フォルクスワーゲン)の設計、製造を委託され、1年後に「初代ビートル」のプロトタイプを完成する。
1935
フェリー・ポルシェの長男フェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェ(ブッツィ・ポルシェ)誕生する。
1948
フェリー・ポルシェが設計した「ポルシェ356」が誕生。ポルシェの名を冠する初のモデルとなる。
ポルシェ356
1963
フランクフルトモーターショーでプロトタイプ「901」としてデビューした「ポルシェ911」は、翌年量産が開始される。フェルディナンド・アレクサンダー(ブッツィ)・ポルシェが設計し、 フェルディナント・ピエヒが空冷水平対向6気筒エンジンを開発した。彼らフェルディナンド・ポルシェの孫ふたりが挑んだ911は、斬新なフォルムと最高時速210kmという高いパフォーマンスで世界に大きな反響を与える。
ポルシェ911
1972
監査役員会長フェリー・ポルシェの下、ポルシェKGが公開企業となる。また、この年にはポルシェのトップエンドモデル「911カレラRS 2.7」がデビューする。
1974
蛇腹状のバンパーが特徴の2代目「911(タイプ930)」が登場。また、世界的な石油危機のなか、ターボチャージャーを装着する世界初のスポーツカーとして911ターボもデビューする。
2代目911(タイプ930)
1984
ポルシェが製作したターボエンジンがF1を席巻、コンストラクターズタイトルを獲得する。
1988
911がデビューして25周年のこの年、3代目911(タイプ964)の「911カレラ4」が先行デビューする。カレラ4は4WDシステム搭載モデル。タイプ964は、外観デザインのコンセプトは先代と大きく変わらないが、中味は劇的とも言えるほど刷新された。911カレラ2に革新的なAT「ティプトロニック」を搭載。
3代目911(タイプ964)
1993
デトロイトショーで、一体型バンパー、アルミシャシーが採用された4代目「911(タイプ993)」を世界プレミア。同時に水平対向ミッドシップエンジンを搭載するロードスターのスタディモデル「ボクスター」を出展する。
4代目911(タイプ993)
1997
伝統的な空冷式と決別し、911史上初の水冷DOHCエンジンが搭載された5代目「911(タイプ996)」がデビューする。環境性、快適性が意識され、過去最大規模の変更となった。
5代目911(タイプ996)
2004
6代目の「911(タイプ997)」がデビュー。ティアドロップの形をした先代のヘッドライトが、往年の丸形に戻る。駆動系の進化、全体的な質感の向上が目覚ましかった。
6代目911(タイプ997)
2011
7代目となる現行「911(タイプ991)」がデビューする。

 21世紀に入ってポルシェは、ボクスターを成功させ、カイエンで大ヒットを飛ばし、いまやパナメーラとケイマンを加えて4種モデル体制を敷き、来年はそこにマカンという小型SUVが加わる。そのあたりの情報はこの本を読むみなさんならご存知だろう。しかし、そこまで輸入車事情に詳しくない世間では、いまだにポルシェといえば911である。専門誌だって結局そうだ。カイエンやボクスター&ケイマンのフルチェンジの記事よりも、やっぱり911がタイプ991系に替わったときの扱いのほうがずっと大きかった。
 では実態はどうなのかと、ポルシェ株式会社の報道発表を見てみると、年初から9月までのモデル別販売台数がこんな風に明記されている。
カイエン 6万2886台(約53%)  パナメーラ 1万5374台(約13%)  ボクスター&ケイマン1万9732台(約16%)  911 2万1755台(約18%)
 そうなのだ。911は2割に満たない。ポルシェの販売台数の半分以上がカイエンなのだ。口の悪い人間だったら、ポルシェはSUV屋になったなどと言いかねないだろう。それは言い過ぎにしても、現在のポルシェを商売の面で支えているのは911ではなくカイエンである事実は動かしようがない。
 そもそも911というクルマは難しい。それは50年前からずっと水平対向6気筒をリヤエンドに積んでいる。フロントエンジン車でさえ、少しでもエンジンを車体の真ん中に押し込もうとBMWもトヨタ86もミリ単位の努力をしている。そのくらい前後重量配分はクルマの運動性能にとって重要だ。にもかかわらず911は相変わらずお尻にエンジンを積んでリヤヘビー。エンジン周りのスペースに余裕がないから、排気も苦しく、ヌケのよさと騒音対策を両立させにくい。ボディの形だってそうだ。後ろがなだらかに落ちていくあの形状は基本的に高速でリフトが発生しやすい。だが、どんなに不利でも、世間やファンは、あのカタチで水平対向でRRでなければ911と認めない。変えることは、911でなくなるということを意味するのだ。
 そんな風に、根本的に不利な要素をいくつも抱えながら911は生き長らえてきた。基本面で有利なはずのFR型式やミドシップ形式のスポーツカーを向こうにまわして、世界を代表するドイツの雄として君臨してきた。何十年のキャリヤを持つ歴戦の911愛好家は、ポルシェというだけで褒め称えるメディアとは違って、きわめて厳しい評価眼をもっているが、彼らをも歴代の911は納得させてきた。そのためにポルシェは、車体剛性を高め、サスペンションを磨き上げ、リヤウイングを始めとする空力デバイスに研鑽を積み、90年代からは4WD技術を取り込み、最近では4輪操舵まで採用した。その技術の積み重ねと、それに要したマンパワーと資金と時間は、FRやミドシップのスポーツカーの何十倍になるだろうか。
 だから損得勘定だけを考えたら、911など作らないほうがいいのだ。販売台数で2割に満たない911など早々に見切って、代わりにパナメーラを短く切ったFRの2ドアスポーツカーでも作って穴埋めすればいい。そのほうが苦労は少なくて、たぶん利益率は上がる。世界中の自動車メーカーが開発や生産のコスト効率に血道を上げる現在、それは損得勘定では正しい判断かもしれない。
 だが、ポルシェには911が必要なのだ。そもそもデカくて重いクロカン4駆のカイエンを、凡百のスポーツカーを蹴散らせるほど速く走らせることができたのは、不利な条件山積みで911を作ってきたなかでの細かなノウハウの積み上げがあったからだ。本来ならRRの911よりも速くておかしくないボクスターやケイマンを、立派に走る能力を持たせながらも911よりは少しだけ劣る落としどころに精密に着地させるなどという絶妙なクルマ作りは、911でシャシーやボディの技術の引き出しをたくさん作り上げてきたポルシェだからできたことである。
 だいいち世間が、我々が、納得しない。911があるからこそイメージのなかでポルシェは輝く存在でい続けている。911というスターがいるからカイエンもパナメーラもボクスターも輝いて、人々は安心して911でなくそれらを買っていける。911があってこそなのだ。
 打線は4番バッターが中核に座っているから機能する。4番バッターは打率やホームランの数そのものではなく、核としていられるだけの実力と存在感を自他ともに認められることが重要だ。そのことは今年の楽天イーグルスが証明したではないか。
 911は永遠にポルシェの4番バターでいるだろう。4番を務めることができるクルマに仕上げるため、これからもポルシェはFRやミドでスポーツカーを作るメーカーの何十倍もの血の滲む努力を続けるだろう。
 金勘定や数字ではない。911はポルシェにとって何よりも必要なクルマであり、911があるからこそポルシェは世界に冠たるメーカーとして尊敬される。そして911が輝いているからこそ、世界中のクルマ好きが幸せになれる。事はポルシェという会社だけの話ではない。それは自動車世界にとって絶対になくてはならない存在なのだ。

PROFILE
自動車ジャーナリスト
沢村慎太朗
研ぎ澄まされた感性と鋭い観察力、さらに徹底的なメカニズム分析によりクルマを論理的に、そしてときに叙情的に語る自動車ジャーナリスト。
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