アメ車とのV8エンジンの特別な関係

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アメ車とのV8エンジンの特別な関係

アメ車と言えばV8エンジン。そう思うのは、アメリカのクルマ好きだけではないだろう。
腹にドドドッと響く独特の大排気量サウンドは、今日でもアメ車の象徴となっている。
アメリカ人がV8エンジンに抱く想いとは、一体どのようなものなのか。
沢村慎太朗

1915年、世界で初めてV8エンジンを搭載したモデル「キャデラックタイプ51 」。ここから、アメ車とV8の長い蜜月の物語がはじまった。

アメリカ人の感性に合うV8エンジンの魅力とは
 V8といえばアメリカ車。それが世の中の通り相場だ。たしかにアメリカ車はV8を看板とし、アメリカ人はV8に思慕を寄せる。世界を挙げてのダウンサイズ過給ブームに沿って、マスタングは次期モデルに直4ターボを積むという。だが、それでもV8搭載アメリカ車は残るだろう。それは、ほぼ理屈を超越した精神エリアの話なのだ。
 ただし、V8というエンジン形式の始祖はアメリカではない。フランスである。しかし、V8というエンジン形式に革命的な改良を施して、一般的なパワーユニットにしたのはアメリカだった。
 史上初のV8はフランスで生まれた。それは1901年のこと、レオン・ルヴァヴァッスールというフランス人がV8という形式を考案して翌年に特許を取った。それまでエンジンは単気筒から始まって、V型や直列や水平対向の2気筒、直列4気筒と進化していって、そこで気筒数を増やす作業は足踏みしていた。4の次は6とだれもが思う。だが直6となるとクランクシャフトが長すぎて暴れのた打ち回ってしまって満足に回ってくれなかったのだ。だが待てよ、直4ならちゃんと回っている。V型2気筒も回っている。ならば、その直4をふたつV型に合体させてV8にすればいいのでは……。ルヴァヴァッスールがそう考えたかどうかは知らないが、ともかく世界初のV8が20世紀の最初の年にフランスで誕生した。意外かもしれないが、その頃までのフランスは世界の技術の最先端を走っていた国だったのだ。
 V8は生国フランスを筆頭に、すぐに多くの追随者を生み出し、飛行機や船など大馬力エンジンが必要な乗り物のために用いられたあと、1910年にド・ディオン・ブートンが自動車用として初の量産V8を送り出す。このあとにアメリカの出番がやってくる。1914年にキャデラックがV8を載せた生産車を誕生させたのだ。
 だが キャデラック技術陣はV8に問題があることを認識していた。それは振動問題である。直4エンジンには振動が残る。これをふたつ合体させたV8だと問題はさらにヤヤコシクなる。高級車キャデラックには頭の痛い問題である。
 しかし、アメリカは10年近くその問題に取り組んで、ついに解決法をものにした。直4と同じだったクランクの形を変えたのだ。それまではクランクの上下(もしくは左右)にコンロッドを取りつける腕が伸びていた。腕同士の相互角は180度である。これを上下左右に伸ばして相互角90度としたのだ。こうすると8つのピストンの慣性力が互いに上手く打ち消し合って振動が大幅に少なくなることを彼らは発見したのだった。そして、このV8の革命児は23年にキャデラックに載って市場に送り出される。
 以降、V8は、キャデラックが発明した90度クランク方式が世界の主流となった。そのころV8を載せる市販車はみな高級乗用車であり、振動が少ないことは何よりも重要だったのだ。フォードもそれに倣った。
 だが180度方式も残った。レースの世界だ。90度方式だと振動は少ないが、片バンクの4気筒の排気管をそのまま集合させると等間隔で排気が流れずフン詰まり気味になる(アメリカンV8のドロドロという音は排気が間歇的に出てきているから生まれるのだ)。一方180度方式だと、振動は出るが排気はスムーズに流れてくれる。馬力が出る。レース車輛の場合、振動はシカトできる。それよりも馬力だ。だから180度方式が使われ続けた。
 そんな180度方式のV8を市販車に使ってるメーカーがある。フェラーリとマクラーレンだ。ロータスもエスプリに180度方式のV8を載せていた。彼らはレース屋であり、レースのやりかたで馬力を出すことを選んだのだ。振動じゃねえだろ馬力だろ。レース屋の意地である。
 面白い解決法を考え出したのがBMWだ。彼らは吸排気を逆にしてVの谷間に排気管が出るようにした。そして両側のバンクから出る排気管を無理やり合流させて、等間隔排気にした。現行BMW車に乗るV8ターボがそれである。これを見てアウディも同じことをやった。
 そんな風に馬力を追いかけるV8勢がある一方、アメリカはひたすら90度方式で押した。しかも彼らのV8はDOHCではなくOHVという古式ゆかしい方法論。そのために出しにくくなる最高出力は排気量で補うというのがアメリカの手法だった。大排気量のV8は低い回転域からドドドッと蹴飛ばすようなトルクを炸裂させる。その雄々しい感覚が広い大地の中で生きるアメリカ人の心を震わせたのだろうし、必死でエンジンをブン回すのでなく、ユルユルと回して走るときに生まれる余裕が、広い大地を延々と走る彼らのクルマの使い方に合ったのだろう。
 そしてまたアメリカはOHVのV8にこだわり続けた。OHVだと燃焼室のカッコが悪くて上手くガソリンが燃えてくれないと気づいたクライスラーは、50年代にヘミヘッドという解決法を編み出した。フォードはル・マン24時間レースでフェラーリ打倒を目指し作ったGT40という純レーシングカーにOHVのV8を積んだ。GMはアメリカ製スポーツの王者を以て任じるコルベットにOHVのV8を載せ続け、C4時代にはロータスに設計させたDOHC4バルブのV8を載せたことがあるが、今は再びOHVに回帰して今もそれを遵守する。そして先代Z06ではDOHCのポルシェやGT-Rをニュルのタイムで打ち破ってみせた。技術向上をサボってるという話とはまったく違うのだ。言うなれば異常な固執や偏愛であり、もはや哲学の域に昇華している。
 そもそもV8よりも気筒数を増やしたければV12という手が昔からあったのである。キャデラックも31年にそれを載せたことがあり、V16までやった。しかし、その後アメリカ車はV8に戻って、今もV8を搭載エンジンの最高峰として掲げる。理屈ではない。燃費とCO2を気にして結構な数のV8が6気筒や4気筒に代わられるだろう。それでもV8は生き残るはずだ。なぜなら、それは生きる道の選択であり、哲学なのだから。それは工学ではなく文学である。生きる道や哲学は変らずに永遠であることが求められるのだ。
HEM(I ヘミ)

半球形の燃焼室を持つ伝説のエンジン「HEM(I ヘミ)」は、1950年代に華々しく活躍し、現代でも輝き続けている。

キャデラック シリーズ 452A

排気量7407cc。世界で初めてV型16気筒エンジンを搭載したキャデラック シリーズ 452A。車重は2.7tを超えた。

V8エンジン

V8エンジン搭載モデルの3大スター

クライスラー 300 レターシリーズ

エレガントな高級モデルとして、当時羨望の的であったレターシリーズ。車名の後に付くアルファベットが、「B」から「L」まで年を追うごとに進んでいくためにこう呼ばれた。

フォード GT400

40インチ(1016mm)の低い車高から名付けられたレーシングカーは、当時のレースで無敵の強さを誇ったフェラーリを破り、ル・マンで伝説の4連勝を飾る。それはアメリカの勝利だった。

ダッジ チャージャー スーパービー

マッスルカーの頂点とも言える存在ダッジ チャージャー。全長5.2m、全幅2mを超える巨体を怒濤のごとく加速させるのが、400馬力、60kg mを発生する脅威の7Lユニット「426 Hemi」。

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