

- MINIがたくさんのオーナーを虜にしている、独特の走行感覚「ゴーカートフィーリング」。
その走りを極めたスペシャルなグレードがJCW(ジョンクーパーワークス)だ。
ATモデルも追加され、ますます魅力をますJCWには、MINIの走りの魅力が詰まっている!
- 文●石井昌道 写真●佐藤亮太
日常からサーキットまで走りの質感が高い
MINIがスポーティであることは、だれもが認めるところだろう。作り手のBMWも、オリジナルがもっていたゴーカート的なハンドリングを標榜しているのだからそれも当然。だが、2002年に登場したころのMINIは、少々ハンドリングに演出めいたところがあって鼻につくと感じてもいた。あまりロールしない段階からキュンッとノーズが動きたがる挙動は、ゴーカート・ハンドリングを無理に再現しようとした形跡があり、なんだか不自然だったのだ。さしものBMWも、FFの味作りには苦心したのだろうか?
だが、そんな懸念も月日が経つごとに薄れていった。今ではクオリティの高い走りと、スポーティ感の演出がどんぴしゃにはまり、日常域からサーキット走行まで、期待を裏切ることがないのだ。
そもそも、ボディ剛性を始めとして各部のクオリティは申し分ない。サスペンションは想像するよりも深いストロークをみせるが、これが意外とスパイスの効いた味わいに繋がっている。ただ速く走らせるだけだったら、とくにフロントはもっとロールを規制してもいいのだろうが、それをやってしまうと日常域では小気味よく曲がる感覚が薄れてしまうだろう。低い速度域からスーッと曲がっていく感覚と、コーナー立ち上がりで思い切ってアクセルオンしたときの、やりすぎない程度のじゃじゃ馬感。そういったさじ加減が本当にうまい。10年の月日を経て、MINIはゴーカート・ハンドリングを磨きあげてきたのだ。
その一方で、もうちょっと高い速度域で楽しみたいというハードなユーザーのニーズに応えることにも積極的だ。クーパーSは日常からワインディングを楽しむ領域でベストだが、JCWならば、サーキットでも楽しめる。しかも今ではATも用意することで門戸を拡げている。
サーキットで試乗してみるとATが想像以上にいい。その日はコース脇に残った雪が溶け出して、ドライとウエットが入り交じった難しいコンディションだったのだが、そんなときにブレーキやハンドル操作に集中できる2ペダルはありがたい。シフトクオリティもトルコンATとしては最高の部類で、シフトアップした直後からダイレクト感があるし、シフトダウンもスムーズ。操作は、ダウンだけをシフトスイッチでマニュアルで行い、アップは自動で任せておけばスピーディでもある。もしかしたら、3ペダルよりもタイムラグがなくて速いと思えるぐらいだ。
JCWをサーキットで走らせていて、マニアックな視点から唯一気になるのはランフラットタイヤ。とくに今回のように路面の変化が多いと柔軟性がほしくなったりもする。
そこを解決し、さらに思いっきりレーシーに振っているのが限定のJCW GPだ。タイヤはランフラットではなく、KUMHOと共同開発したグリップ特化型の専用品。スプリングレートは対JCWで約2倍にまで引き上げ、ビルシュタインの倒立モノチューブダンパーを装着。フロントはキャンバーをネガティブ方向へ。ブレーキも特製の6ポッド(フロント)だ。
サーキットではほかのMINIとはちょっと次元の違う走りを見せつける。ブレーキングをギリギリまで我慢し突っ込んでいけるし、フロントに荷重が強めにのっている状態でもへこたれないでとんでもなく舵が効く。なんの演出もなしに速さを追い求めたJCW GPは、MINIの本当の姿だとも言えるだろう。ファインチューンのエンジン、ドラッグを6%下げながらリヤリフトを90%抑えたという空力などの効果もサーキットでは絶大だ。
MINIの凄さは、ベースに優れた資質を持っていることはもちろん、ドライバーを楽しませることに対して類い希なセンスがあることだろう。ドライバーの好みやスキル、走るステージなどに合わせて、多種多様なモデルをそれぞれのレシピで絶妙に作り分けている。その隙のなさにはもはや脱帽するしかないのだ。
●JCWモデルならではの鮮やかなトリムが目を引くインテリア。パワーに合わせてブレーキも強化。
●MINIの走りを極限まで磨き上げたJCW GP。JCWよりもさらに7馬力強力なエンジン、専用エアロパーツ、専用ステッチ入りのレカロシートを備える2シーター。わずか2000台の限定生産モデルとなる。


MINI JCW(6速AT)
●全長×全幅×全高:3745×1685×1430mm ●エンジン:直4DOHCターボ ●排気量:1598cc ●最高出力:211ps/6000rpm ●最大トルク:28.6kg m/1750〜5500rpm ●サスペンション前/後:ストラット/マルチリンク新車価格:390万〜460万円
PROFILE
石井昌道
●レース参戦経験を持つ自動車ジャーナリスト。日々、国内外で行われる新型モデルのテストドライブへ精力的に赴き、ステアリングを握る。専門誌はもちろん、一般誌でも健筆をふるう。