クルマで2気筒なんていつの時代のハナシ?……そう思う人も乗ればわ
かる楽しいクルマ。エコとか関係なく、リラックスカーとしての資質も十分あります
細かなことは気にしないそんな気持ちで乗りたい
難しい説明はいくらでもできる。
500ツインエアの2気筒ターボは、欧州で大流行中のダウンサイジング志向に沿ったもの。気筒数と排気量を減らし、その分フリクションを下げる。足りなくなった馬力とトルクはターボ過給で補う。出来上がるのは、燃費よく、CO2排出量が少なく、しかし馬力は以前と変わらぬエンジン。ターボのおかげで低速トルクが太くなるオマケもついた。
この過給ダウンサイジングの流れを作ったのはVWだった。彼らはまず直4の排気量を減らしてターボをかけた。しかる後に3気筒ターボの開発を始めた。
ところが脇から「ちょっと待った」と躍り出たのがフィアットだった。
フィアットは4を3にするくらいじゃ甘い甘いと一気に2気筒にした。4を3ならフリクションは1/4しか減らないが、2ならば半分になる理屈だ。それに気筒あたりの排気量は450ccが最適だと世界中の研究が結論してる。だから1Lくらいだと3気筒でも気筒あたり排気量は少なすぎて、2気筒がベストなのだ。
しかしだれもが2気筒には二の足を踏む原因があった。振動である。
3気筒でも振動は出るが、これまでの経験でバランサーシャフトを入れれば何とかなる。しかし2気筒は、単気筒エンジンが並んで回るのと同じだから、バランサーくらいでは消せないほどの盛大な振動がドコドコと出る。みな、これを恐れたのだ。現代の商品としては野蛮すぎると。
しかしフィアットは恐れなかった。確かに振動は出たが、目をつぶって500に載せた。
500は50年代にイタリア人のアシとして大活躍したオリジナル500の再現車である。そして、そのオリジナル500も2気筒で、ドコドコと振動を出しながら健気に走った。だから新型500だって、ドコドコと走ってもいいじゃないか。なにしろ燃費だってイイんだからね。
騒音振動要件だの何だの、現代の自動車が血眼になるそういうテーマを明るく笑ってシャラくせえぜと切り捨てた境地に500ツインエアは生まれたのだ。
だから我々も小難しいゴタクを忘れて、気楽に500ツインエアに乗ればいい。
たしかに鼻先からドコドコは聞こえてくる。しかし、それは日本のタウンスピードで走るからで、もう少しペースを上げるとドコドコのピッチは細かくなって、ああ昔のエンジンはこんなもんだったなくらいで済む。ペースを上げたら燃費はハイブリッド車なんかより落ちるかもしれないが、そういうことは気にしない。
眉間にシワを寄せて環境を語るのはひとまず置いといて、今日は気楽に行こうぜ。500ツインエアはそう言っている。
その台詞に、こちらも気楽になって乗り込めば、500ツインエアはただひたすらクールに路上を行き交うハイブリッドを掻き分けてドコドコと陽気に走ってくれる。そこには走る喜びが待っている。
省燃費もCO2もエコも楽しみながら行こうぜ。それが500ツインエアの主張なのだ。
Spec.
フィアット 500 ツインエア ラウンジ(5速AT・デュアロジック) ●全長×全幅×全高:3545×1625×1515mm ●車両重量:1040kg ●エンジン:直2マルチエアターボ ●総排気量:875cc ●最高出力:85ps / 5500rpm ●最大トルク:14.8kgm /1900rpm ●サスペンション前/後:ストラット/トーションビーム ●新車価格:245万円 (※500ツインエア全体では215万〜 245万円)
Profile 沢村慎太朗
メカニズムの知識とスーパーカーやスポーツカーに対する造詣はだれよりも深い自動車ジャーナリスト。そんな彼が選んだのは意外にもフィアット500。プリミティブな魅力が彼の心に突き刺さった。
VOLKSWAGEN POLOフォルクスワーゲン ポロ
フィアットとは対照的に、ポロの性格は生真面目。ドアの作りは頑強だし、内外装の質感もひとクラス上と言っても過言ではない。それでいて静粛性の高いエンジンは低燃費を実現しているのだから、まさに敵無し。フィアット500のラテンなノリについていけない人は、ぜひポロをお勧めする。安定感のある走りや低燃費、街に溶け込む自然なデザインにはリラックスカーとしての資質が大いにあるだろう。
●新車価格:213万〜 294万円(※全グレード)