日本にはなぜミニバンが多いのか。理由のひとつに「仲間意識」を考えすぎる国民性があるんじゃないかと思っている。
友だちといっしょにスキースノボに行きたいから。盆暮れにおじいちゃんおばあちゃんを乗せるから。そんな理由で年に2〜3回しか使わない3列シート付きを選ぶ人がけっこう多い。それがあのミニバン軍団につながっているんじゃないか。
ヨーロッパでもいまミニバンは人気で、シトロエンC4ピカソなどバカ売れだけれど、現地のピカソの多くは日本では売っていない2列シート5人乗りだったりする。
向こうの人は、年に2回しか使わないならいらん、というロジックがフツー。ボディが大きくなって取り回しが悪くなるし、重いから燃費、言い変えれば環境負荷が高くなる。マジであちらの人たちの地球に対する考えは真剣だ。環境先進国といわれるドイツや北欧だけじゃなく、フランスやイタリアといった一見楽天主義的な国だって、超ポジティブにエコと向き合っている。
それとヨーロッパは100km/h以上の世界が日常であることも忘れちゃいけない。アウトバーンの速度無制限は今のご時勢ナンだと思うけれど、一般国道が高速コーナーになったりすることは日常茶飯事。となると空力性能や操縦安定性も重要になる。そんな状況では背の高いミニバンはやっぱり不利。ファミリーカーはCセグメントのハッチバックかDセグメントのセダンがメインなのは、こういったバックグラウンドを考えれば当然といえるのだ。
もっともこれには地域差があって、ヒトの体格もデカい北ヨーロッパのほうが大きいクラスを選びがち。とくに北欧は冬寒いから、トランクが独立したセダンにも荷物の出し入れで室内が冷えないというちゃんとしたメリットがある。逆にスペインやポルトガルといった南欧は昔はBセグメントがファミリーカーの標準だったけれど、EUの一員になって地域間格差が縮まったおかげで、昨今はCセグメントが主流になりつつあるようだ。
エンジンは、これも地域差はあるけれどCO2排出量の少ないディーゼルエンジンが主流。地球環境を考えてということもあるけれど、それ以前にケチな彼らにとっては、燃費がいいほうを取ったという理由もある。3列シートもそうだけれど、ムダなことにお金を払わないのがヨーロッパ人の流儀なのだ。だからたとえガソリンエンジンでも排気量は小さめ。Dセグメントは4気筒、Cセグメントなら1・6L以下がメインになっている。2ペダルを含めたMTが圧倒的に多いのは、そんなシーンを想像すればわかるはずだ。
もちろんしかるべき身分の人たちは、ロールス・ロイスやベントレーで世間を見下ろし、フェラーリやポルシェでカッ飛んでいたりする。でもそういう人種はごくごく一部。その他多くのドライバーの生活はホントにつつましやかだ。ロールスやフェラーリに乗る人たちをうらやましがったり妬んだりせず、別の世界の人種とわきまえ、自分たちは自分たちの身の丈に合ったクルマ選びを粛々と実行している。彼らにとって自動車は動く道具。ある意味そう割り切っているフシがある。
夢も希望もない話だって? そんなことはない。現地のスーパーマーケットに行った人は、そこに売っている日用品や文房具が、どれもスタイリッシュでカラフルで、おとな買いして帰りたくなる逸品ぞろいだということを知っているハズ。
高級品だけに贅をこらし、安物は作りに手を抜くということを彼らはしない。ベーシックなモノには、それに似合うすばらしい造形や色彩があると信じている。階級社会は容認しつつ、人生を楽しむことにかけては平等を貫くのがヨーロッパという場所なのだ。
クルマの世界でわかりやすい例を挙げれば、コンパクトなクロスオーバーがある。日本でもフォルクスワーゲンの「クロス〜」が販売されているけれど、あちらへ行くと多くのブランドがあのテをたくさんラインアップしている。
もちろん4WDではなくFFのまま、見た目だけSUVっぽくしている。なんちゃってヨンクと呼ぶ人がいそうだ。でも彼らにとってはそれでいい。4WDは重くて実用性能、環境性能が悪くなるし、威力を発揮できるシーンがあるかどうか。ようするにムダなメカなのだ。でもヨンクっぽいカタチはファッションなわけで、ムダというほうがヤボ。アウトドアルックで街を流す。それだけで理屈を越えた新鮮な気持ちになれるのだから。そんな部分がウケて、現地で増殖中なのだろう。
ベーシックなハッチバックやセダンだって、同じクラスでも質実剛健なフォルクスワーゲン、前衛的なシトロエン、情熱のアルファロメオと選択肢は豊富。ファミリーカーとしての機能をしっかり押さえつつ、明確な個性を主張している。価格や性能よりも、そっちのほうが重要。それが近所づきあいより自分らしさを大切にする現地の人たちにとって、ライフスタイルを表現する手段のひとつになっている。
ブランド品は持たないけれど、おしゃれには気をつかう。そんなヨーロッパ人の感性を、クルマ選びは生き写しにしているのだ。