ボーイズ・ビー・アンビシャス。明治の昔、札幌農学校(今の北海道大学)のクラーク教授が学生に呼びかけた有名な言葉で、普通は「少年よ、大志を抱け」と訳されているが、本当は「お前ら、ビビってんじゃねえぞ!」ってな意味だったとか。
それを現代に翻訳すると、「クルマなんか、買っちまえばなんとかなるさ」が僕の実感だったりする。不景気続きで収入激減の世の中だから、ただ夢だけ見たって意味ないが、しっかり自分を見つめて想像の翼を羽ばたかせれば、立派にクルマを楽しめるはず。問題は、どこまで根性イッパツ決められるかだ。
金もないのに漫然と今の暮らしを続けていたら、クルマは永久に手に入らない。カギは一点集中だ。意味ない衝動買いはしない、無駄なお洒落もしない、ケータイは自分から掛けない、出かける時はコンセントを抜くとか、とにかくクルマに関係ないことは徹底的に倹約する。お洒落なんかしなくても、若者は若いというだけでカッコイイんだから。
そのうえでGooWORLDを見てみると、100万円以下とか200万円以下とか、安い中古輸入車もけっこう出てる。何の心配もない日本車に慣れてると、ゆくゆく金がかかりそうな気もするだろうが、そこで引いたんじゃクラーク教授に叱られるぞ。たいてい本体価格のほか諸経費とか当面の手入れ料金とか、余裕を見れば合計数十万円ほど見といた方が無難ではあるが、それでも軽の新車ぐらいで、とりあえず明日から幸せな輸入車生活は始められる。
何が幸せかというと、知らず知らずのうちに「異文化」を体験できるからだ。それぞれの国や民族のカルチャーをクルマ経由で味わえるから輸入車は楽しいんであって、ただ走って使えりゃいいんなら、日本のクルマが最高に決まっている。つまり「精神のコスプレ」ですな。
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Profile
熊倉重春
各紙で精力的に執筆中の熊倉氏。今回の企画では圧倒的説得力で輸入車の魅力を若いうちから体験することを勧めてくれた。 |
たとえばVWゴルフでもIIかIIIの世代なら、サラリーマンの初任給3カ月ぶんで買えるものもある。とりあえずモディファイなんぞに金かけず毎日じっくり使ってみると、ドイツの中流家庭がクルマを使い切る(使い倒す)感じがよくわかる。その延長線上に、乗ったことのないメルセデスやポルシェの存在意義まで見えるのは、不思議だが本当だ。プジョーやルノーの古いのを乗り回すと、気分はとっくにフランス映画の主人公だったりする。なにげにパリの裏道に駐めてる自分なんか、想像するんじゃありませんか。おもしろいのはフィアットで、まるで骨組みだけみたいな初代パンダでも、ステアリングを握るとアドレナリンどくどく湧いちゃう。走る楽しさって、馬力の数字や最高速じゃないってことを、こんなに鋭く教えてくれるクルマはない。
そういう意味で最高なのはミニ(もちろんオリジナルのADO15)。大流行のBMW製とは違って、何と言っても現在の横置きFFの元祖だけに、どうにも動かしようのない原則感が凄い。「本当のミニって、これなんだよ」とニュー・ミニの前で言えるのは痛快だし、悠然たるOHVエンジンの息吹に親しむうちに、ついイギリス人っぽく午後のお茶などたしなんでいる自分を発見したりするのが嬉しいかも。このミニもローバー時代は信頼性が低下したが、弱点はわかってるし、直せる工場も多いから、そこに入り浸ればさらに知識も吸収できる。
ここでわかるのは、誰だって何か選んでしまうと、そのクルマに合った暮らしの形を作ってるってこと。だからこそ、自分がどうありたいか、自分自身をデザインする想像力が求められるわけ。だったら、そういう提案力とか影響力の濃いクルマの方が楽しいやね。それを経験してみると、信じられないことに、やがてもっと上級のクルマも買えるようになって、若かった日々を懐かしむんですな、世の中というものは。だから今、ボーイズ・ビー・アンビシャスなんであります。
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