悠久の歴史が息づく古都、鎌倉は刻まれた時間と同じだけ、めぐりたいと思える名所がたくさんある。だからこそ、鎌倉は訪れるたび新しい発見に出会える、リピート率が高い観光名所なのである。
今回掲げたテーマのように、あえて違う視点から目的地を選択していけば、また違った鎌倉の姿が見えてくる。そこで午前中に楽しんだ人力車のように、日本ならではの文化、伝統に向き合ってみたくなった。
いろいろ悩んだ結果、今回挑戦したのは「抹茶」。日本人である以上、少しはお茶の心得がなければ恥ずかしい……なんてことも考えながら、お勉強のつもりで抹茶が嗜める施設を探していった。そしてたどり着いたのは、1188年に創建が浄妙寺の境内にある「喜泉庵」。
伝統の建築様式によって作り出された一室は、見事に日本人の本質を捉えた、ホッと落ち着ける空間。自然と五感が研ぎ澄まされるのか、深いひさしの奥に望む、枯山水の庭園が、一層の美しさを放っているように感じられてくる。そんな静寂が流れる部屋に座ってみると、すぐ隣に置かれたつくばいから心地よい水の音が聞こえてきて、とってもいい雰囲気。おのずと、これからもてなされる抹茶に期待が膨らむ。
その高鳴る気持ちを静めるかのように、まずは差し出された干菓子をひと口。シンプルで、ほんのりとした上品な香りを楽しんだあとは、いよいよ茶碗に手をかける。時計の針と同じ方向に二度まわしたあとに、「すっ」、「すすっ」。抹茶の奥深い味わいに浸りながら、その余韻に浸るようにして、美しい輝きを放つ茶碗をじっくりと眺めるのであった。
ここ「喜泉庵」は、抹茶をはじめて体験する人が数多く訪れることもあり、格式にとらわれ過ぎない気軽さが魅力。必ず正座である必要はないし、スタッフに尋ねれば作法も教えてくれる。とにかく緊張せず、肩の力を抜いて訪れてほしい施設だ。