サルーンというのは、上級セグメントになるほど保守性を強めるのが普通。でも、そんなありふれた常識は、シトロエンには通用しない。ハイドロニューマチックサスを引っさげて1955年に登場したDSの時代から、アバンギャルド(前衛的)な思想、エスプリのきいた未来的デザインと、革新的なメカを核とする高級車を世に送り出してきた。
その伝統を現代に受け継ぐのが、05年(日本は06年)にリリースされたC6だ。原型は99年にショーデビューを飾ったC6リナージュで、そこから長い時間を要したが、オリジナルデザインをほとんど崩すことなく量産化された。長いホイールベースとフロントオーバーハング、短いリヤオーバーハング、優美なアーチを描くルーフラインを特徴とするスタイルは、シトロエン・フラッグシップの十八番といえるものだ。
ディテールでは、CXを彷彿とさせる凹面リヤウインドウや、ダブルシェブロンをモチーフにしたフロントマスク、ボディラインに完璧に融け込むヘッドライトやリヤコンビランプ、フレームレスのサイドウインドウなども目を引くところ。さらに、ファストバックスタイルと独立したトランクを組み合わせた個性的パッケージを含めて、シトロエンでしかありえない姿形をしている。
また、XM(サルーン)と比べてホイールベースを50mm、全長を200mm、全幅を75mm、全高を70mm拡大するなど、前作よりひとまわり大きくなったボディも見逃せないポイント。メルセデスEクラスやBMW5シリーズと同じセグメントに属するが、存在感ではライバルを寄せつけない。スタイルやムードだけで「自分のものにしたい」、「コイツを着こなせるようになりたい」と思わせるクルマはめったにはない。
2000年のXMの生産中止から、しばらくシトロエンの旗艦は空位が続いていたが、C6の出来は待ちわびたファンを納得させるものだった。
その魅力には当然、くつろぎを約束するゴージャスなインテリアや、ハイドラクティブVプラスに進化したハイドロニューマチックが生み出すたおやかな乗り味も含まれている。C5がモデルチェンジして大型化、高級化したことで、その地位が脅かされている印象もあるが、比べてみればやはりC6は格が違う感じ。
プレミアムサルーンのなかで、何者にも似ていない個性を求めるなら、アバンギャルドな道を突き進むC6は忘れてはいけない存在だ。
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