Lセグメントというのは、メルセデスEクラスやBMW5シリーズなどが属するアッパーミドルクラス(Eセグメント)の上に位置する、量産サルーンでは最上位の階級だ。
その「世界基準」は、5m級の全長、標準とL(ロング)のボディ展開、V8をメインとするエンジン構成だが、それらの要件はすべて、メルセデスSクラスが長い歴史のなかで確立したものだ。Sクラスはいつの時代も、最高級サルーンのベンチマークであり、不動の王者だった。
だが、90年代に入ったころから、高級車界の中心に鎮座していたSクラスは、しばし迷走をすることになる。ボタンの掛け違えは……ボディサイズを前作のW126よりひとまわり拡大して、新開発の6LV12を積む600SE&SELをイメージリーダーに据えたW140だ。
デビューは91年。世界景気のリセッションや、環境問題による逆風は今ほど深刻ではなかったが、それでもW140が選択した重厚長大路線は「やりすぎ」の評価が大勢を占めた。で、BMW7シリーズや、アウディA8(前身はアウディV8)、レクサスLSなどのライバルを勢いづかせてしまうことになったのだ。
するとメルセデスは、「どっちの方向に行けばいいのか」と、Sクラスの開発ではじめての迷いを経験することになる。そうして98年に送り出されたのが、思い切ってボディサイズや生産コストのスリム化を図り、スタイルも大胆なほど若々しく変身させたW220だった。
でも……今度は逆の方向に振りすぎてしまう。セールス的には好結果を残したが、「イメージや走り味が軽すぎる」、「Sクラスらしくない」と、オーナーやファンから辛口の評価が寄せられたのは事実だ。
そんな紆余曲折を経て、満を持して05年に投入されたのが現行のW221・Sクラスだ。まず目を引くのは、風格あるマスクや、マイバッハを思わせる優美なリヤビュー、量感あふれるフェンダーアーチが個性を演出するスタイル。ホイールベースを70mm(Lは80mm)、全長を30mm(同40mm)、全幅を15mm、全高を40mm拡大するなどパッケージも進化させて、存在感を確実に高めた。
加えて、品質感を大幅に高めた内装や、COMANDシステムに代表される先進装備も大きな注目点。一言で表すなら……「Sクラスらしさが帰ってきた」という感じ。揺るぎないベンチマークとして、W221は高級サルーン界に君臨している。
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