第2回目 BMW全方位 2 / 2ページ

GooWORLD特集記事 [2017.09.28 UP]

BMW 永遠のM

永遠のM

大胆な発想と緻密な計算、精巧な技術によって生み出される高性能モデル。BMWの「M」に我々が抱く、そんなクールなメカのイメージとは大きく異なり、真実は、情熱にかられた職人たちが作る、非常に人間臭い「機械」なのであった。

文●沢村慎太朗、GooWORLD
写真●GooWORLD、BMW

超高性能モデルは熱い親爺たちが作る

 BMWは1972年に競技部門を独立させてMotorsportGmbHを設立した。この有限会社は1993年にM GmbHに改称されていまに至る。長らく競合してきたベンツがAMGを買収したのも、21世紀に入ってBMWを的にかけてのし上がってきたアウディがクワトロGmbH(現在はアウディ・スポーツGmbH)を増設したのも、これに倣ってのことである。

 BMWがそうしたのは、販売PRとして恰好の場だった欧州ツーリングカー選手権においてライバルとの戦いが熾烈になってきたからだった。市販車開発部門が片手間に競技車両を仕立てているくらいじゃレースに勝てなくなっていたのだ。そこでBMWは若きエンジン設計のエースだったパウル・ロシェを開発現場の長としてそこに送り込んだ。それだけじゃない。前年の覇者ドイツ・フォードのチーム監督ヨッヘン・ニアパッシュを引き抜いて社のトップに据えた。レースは技術開発の場だとか社員教育のためだとかキレイごとなんぞ言わずに、戦う以上はひたすら敵を屠ろうとする欧州人のある種の獰猛さを象徴する話である。

 こんな血の気の多さを物語るように、ニアパッシュは闘いの場をメイクス世界選手権に移してポルシェに挑み、そのための武器としてランボルギーニに依頼してかのM1を作った。秘かにF1参戦まで考えてツーリングカー競技車に乗せていた直4ターボをロシェに改良させていた。

 こういう手練れの親爺たちをレースだけで遊ばせておくのはもったいないとBMW首脳陣は、彼らに市販用のセダンを改造して高性能化したモデルを仕立てさせることにした。こうして79年からはじまる「M」ではじまる謹製モデルの歴史がはじまった。

 ニアパッシュが去ったあとはロシェが親分となり、80年代には待望のF1エンジン供給を始め、83年にはネルソン・ピケを世界王者にした。このときのチームはブラバム。そのとき車体設計者ゴードン・マーレイがマクラーレンF1を開発するときに頼ったのがロシェだった。マーレイは載せるV12の供給元としてアテにしていたホンダにあっさり断られて途方に暮れていた。それを知ったロシェは「なんならウチで作ってやるぜ」と請け合った。そしてBMWの量産V12を下敷きにしたとはいえ、たった4カ月でこれを初号機のベンチテストまで漕ぎつけて、マーレイの要望どおり500馬力オーバーを軽々と叩き出してみせた。

 このころのロシェの武勇伝はほかにもある。FIAは82年シーズンから競技車両の規定を変えた。売ってるクルマに近いから人気のあった市販改造車レースはグループA。かつてその戦域でならしたBMW首脳陣は参戦を決意する。そして社長はロシェを呼んで「E30系3シリーズで直4を載せた競技車両を仕立てろ、既定された生産台数をクリアするためにすぐに生産に入りたい。可及的速やかに開発を完了すべし」と命じた。命を受けたロシェは、これから直4を設計している暇はないからM5の直6を直4に改変することにした。図面を引き直したのではない。工房に転がっていたM635の直6を作業台に据えて金鋸でブロックの1/3を切り落としたのだ。なんという無頼。なんという現場主義。だが、その男らしいやり口のおかげで競技車両M3は、たったの2週間で完成した。あくる日は土曜日。だがロシェは完成したM3初号機を駆って社長の自宅に乗りつけた。できたぜ。文句あっか!社長も豪傑であった。切った張ったで即席仕上げの初号機にやおら乗り込むと近所を一周。そして待ち構えていたロシェに言った。「いい出来だ。よかろう。これで行こう」。初代M3はグループAで大暴れしてレース史に名を刻んだが、その伝説はじつはこの世に生を受けるときからはじまっていたのだった。

 ロシェが引退して時代が21世紀を迎えても、M社は依然として往時の腕前と血気を保っている。ウイリアムズF1にV10を供給し、同じ形式の市販車用ユニットを開発してM5に載せた。ターボ全盛のいまは通常品とは別設計の過給エンジンを作る。

 拡大を続けるBMWは、マーケ部門がMの冠を乱発してさまざまなモデルに増設している。だがMの文字が後ろに来るクルマでなく、前モデルだけが真の謹製車だ。いまだに手練れ親爺が揃うM GmbHは、BMW本社設計が売りにするランフラットも後輪操舵も鼻で笑ってうっちゃって、M3やM5を開発した。自分たちが信じる最速のBMWを生み出すために。出来あがったクルマは猛烈に速く、そして往年のBMWの健やかさを横溢させていた。もっとも速いと同時に、もっとも美味なBMW。それがM謹製のクルマたちなのだ。

 株主が焚きつけるからでも、社長が恰好つけるためでも、マーケ屋に指図されたからでもない。M社の親爺たちがクルマの真髄を深くわきまえた百戦錬磨で血気盛んな頑固野郎だから、M3やM5はああいう素晴らしい高性能セダンになった。次期M5やM3は日産GTーRに触発されたのか、4WDになるのではという噂が聴こえてくる。Mの頑固親爺たちが健在なら、そうはならないだろう。万が一そうなっても、素晴らしく味わいよく猛烈に速いだろう。

 M GmbH。それは単なる子会社ではない。私たちがBMWに見る夢を紡いでくれる希望の星なのだ。

Profile
自動車ジャーナリスト 沢村慎太朗

●研ぎ澄まされた感性と鋭い観察力、さらに徹底的なメカニズム分析によりクルマを論理的に、そしてときに叙情的に語る自動車ジャーナリスト。

「M」を代表するモデル
スポーツクーペ「M635CSi(1983年、左)」とスーパーカー「M1(1978年、中央と右)」。ともに「M」を代表するモデルで、伝説的な存在となっている。
The Spirit of M
The Spirit of M

F1、DTM、つねにハイレベルなレースシーンに身を置き、獲得した技術と経験をフィードバックし続けるBMW M。高次元のパフォーマンスで、世界中から支持されるプレミアムブランドBMWにとって、Mはまさに「走り」の真髄ともいえる存在だ。

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