A3シリーズに新たに加わったのは、クーペ風の流麗なルーフラインを特徴とするセダンだ。ゴルフにはジェッタ(ヴェント、ボーラを名乗った時代もある)という兄弟の存在があったが、A3はこれまでハッチバックとカブリオレ(日本未導入)の構成だっただけに、ちょっと意外に思う人も少なくないだろう。
カギを握るのは中国を代表とする新興国で、こうした市場ではセダン人気が根強い。拡大する市場でシェアを伸ばすには、コンパクトセダンの存在が不可欠というわけだ。
でも、この新展開は日本市場にとっても朗報といえる。注目は、全幅を1.8m以下に収めたボディサイズと、334万円を起点とするリーズナブルな価格の設定。「全幅1825mmのA4ではマンションの機械式駐車場に入らない」と悩むセダン派は、とくに大歓迎するはずだ。
ちなみに、全長もA4セダンより255mm短い設定で、A3セダンは取り回しのしやすさもウリのポイント。それでいて、キャビンやラゲッジの空間は、家族ユースを十分カバーするゆとりを持つのだから、「ジャストサイズのセダン」と言ってもいい。対抗馬のメルセデスCLAはよりスタイル指向が強く、後席スペースに割り切りが感じられるだけに、実用性とのバランスを考える人はアウディに心が傾くことだろう。
母体は言うまでもなく、新型A3から導入された「MQB」。さまざまなサイズや車型に対応するモジュラーコンセプトを掲げる自由度の高い設計だけに、セダンにすることなど朝飯前といった印象だ。スタイル面では、全高をスポーツバックより低く抑えた点が見どころで、安定感あるプロポーションを形成している。
そんなA3セダンの構成は、スポーツバックでおなじみの4種。抜群の高性能が光るS3を筆頭に、1.8TFSIクワトロ、1.4TFSI、同CODを展開する。シリンダーオンデマンドを意味する「COD」は低負荷時に2気筒を休止して効率アップを図るメカ。ゴルフⅦのACTと同様といえば、わかりやすいはずだ。
標準1.4TFSIを18馬力/5.1kgm上まわる性能を持ちながら、JC08モード値で0.5km/L優秀な燃費を達成できたのは、このCODのおかげ。4気筒と2気筒の切り替えは体感ではわからないほどスムーズだから、走り味の洗練度にこだわる人にとってもネガな要素はない。
2気筒走行の場面は想像するよりも広範囲におよび、とくにエコランを心がけなくてもCODの効果が実感できる。しかも、右足に力を込めれば瞬時に4気筒に切り替わり、直噴+ターボならではの爽快な加速感を味わうことができるのだから、CODの魅力の幅はいたって広い。
そして、セダンならではの魅力といえるのは、ひとクラス上を感じさせる重厚かつ快適な走行フィーリング。キビキビした身のこなしを特徴とするスポーツバックと比べると、セダンの動きは明らかにより落ち着いた印象。タイヤのあたりもマイルドに感じられ、セダンらしい快適な走り味で包み込んでくれる。
というと、退屈な走りを連想するかも。だが、COD仕様は15mmローダウンのスポーツサスを採用し、17インチタイヤを履くのだから、鞭を入れればスポーティな走りもきちんとこなす。足を締めすぎていないのがいいところで、操安性と快適性のバランスは理想的なものだ。
もちろん、より高性能を望むファンには、1.8TFSIクワトロやS3という選択肢がある。でも……A3セダンのベストバイはやはり、1.4TFSIのCODだと言っていい。
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