すべからく買い物というのは、ふたつの綱引きで決まります。払った代償と、それで得たもの、この両者の関係なんですね。値段が絶対的に安くても、得られたシアワセが少なければ、それはいい買い物だったとは言わない。ブランド服が激安割引であっても、気に入らずに着なかったら「買って損」なわけです。
逆に、払った金額が眩暈がするほど高くても、得られる幸福感がそれ以上なら、それはいい買い物だったんです。
中古車だってそう。払う金額が常識はずれに高くても、シビレるほどの幸福が得られるなら、それはアホな買い物どころか「お得」で正しい買い物です。審査ギリギリの高額長期ローンでメシ代まで切り詰める窮状に生活が陥ったとしても、貴方がシアワセならばそれでいいのです。それにホラ、自動車の場合は、破綻の瀬戸際まで行ったら、売払っちまえばいいんですから。
もちろん売値は買値を大きく下回ること必至ですが、それでもある程度は換金できる。キャバにつぎ込むとかバクチで散財したとかだと、後悔しても一銭も戻ってきません。それ考えりゃクルマって無理がしやすい買い物なんです。
とはいえ、無理、無茶してクルマを買う場合、とりわけそれが中古車の場合、後悔しないための、ブツ選びのガイドラインつうか原則みたいなものが一応あるんです。無茶ローンを繰りかえすこと度々の挙句、果てはフェラーリ買って毎月25万の60回払いで仮死状態に陥ったおれの経験なので、まあ聞いてみてください。
まずは「見た目で選べ」です。いやこれ、中古車の本の教えとは逆ですね。みんな「見た目より中身」って書いてある。でもね、中古車って新車に比べて物理的に劣化して減ってるわけです絶対にもう。おまけに、だから壊れたりもする。
いいコンディションを維持するにゃあ金と手間がかかる。この労苦に耐えなきゃならないんです。それにゃあ、見た目って大事です。感情的に気に入ってないブツにカネや手間はかけられねえ。それが人間のサガつうもんです。
考えてみてください。中身の機械はある程度までなら直せます。でもカッコは直らないでしょう。これはボディカラー選びあたりまで含む話です。なんたってクルマは色による印象の違いがデカい。「色より程度」なんて教えはシカトして、大いに色にコダワッたほうがいいです。
もうひとつは形而上的価値観で買うこと。言葉が一気に難しくなっちまいました。具体的にいえばこういうことです。たとえば、最後の空冷フラットシックスだから993を買う。グループAの栄光を背景にE30のM3を買う。創業以来の鋼管フレームの最後のモデルだから328やテスタロッサを買う。こういうことです。
これの反対が現世利益で買うこと。つまり性能だのフィールだの、クルマの物理的なパフォーマンスで買うことです。こういう要素って時間とともに目減りします。直しまくって部品買えまくって、それを押し留めるには膨大な金額と時間が要る。そして完全には不可能。年間100万円ばかり328にブチ込んで5年、おれが得た教訓です。「時間と戦っても勝ち目はない」と悟りました。
それに性能で勝負したら現行新車にゃあ勝ち目がない。新車に引け目を感じながらクルマを維持してく羽目になる。
でも、いくら997が速くても絶対エンジンが空冷になることはない。未来のM3が眩暈がするほど速くても、E30みたいにF1と同じエンジンブロックになることはない---。そのクルマの位置づけの輝きは、どんなに減ってボロくなっても、すり減ることはないのです。
「普通のサラリーマンでもフェラーリは買える」とか無責任にホザく自動車雑誌やライター連中みたいに、おれは無茶や無理は薦めません。
でも止めもしません。ゼニ勘定だけでやったお利巧なクルマ選びだけの人生って、○○○車みてえなツマらないもんだってことを知ってるからです。
人生一度はやってみて、結果玉砕しても、それはそれで面白い経験。これが無理で無茶な中古車買いです。もし間違ってその気になってしまったら、以上のふたつを念頭においてチャレンジしてみてください。 |