メルセデスが大きく変革したのは90年代後半。それを象徴する戦略が多角化で、商品群にSLK、Aクラス、Mクラス、Vクラスを加えたのがこの時期だ。どのモデルもメルセデスの新しいイメージを打ち出した存在だが、新種のMPV(マルチパーパスビークル)として登場したW638・Vクラスは、日本では「スリーポインテッドスターをつけたミニバン」として話題を振りまいた。
そこでW638の成り立ちを見れば……。メルセデス・ベンツといえば、日本では高級車の代名詞。だが、もうひとつの顔は世界屈指の商用車メーカーで、モデル群には小型バンから大型トラックまでが存在する。中型バンのスプリンターは日本でも知られた存在だ。で、その下に位置するのがVITO。じつは96年投入のVクラスは、そのVITOの兄弟として開発されたMPVだった。
でも、乗用は横置きFF、商用はFRと、駆動方式は別モノ。FFの採用はAクラスよりも先で、初代Vクラスは異色ずくめのメルセデスだった。上級モデルとして追加されたV280が、VW製の2.8L狭角V6を積んだのも、自社製V6ではFFに対応できなかったことが理由だ。
で、そこから進化・発展し、現行のW639にバトンを渡したのは03年。FFに見切りをつけ、乗用版も後輪駆動になった。それを機に、ビアノの新車名を導入している。V6SOHCの心臓を3.2Lから3.7Lに変更したタイミングで、日本ではモデル名をVクラスに戻したが、海外では現在もVIANOを名乗る。
変わったのは駆動方式だけでなく、現行型では車種構成も大きく変化。リヤオーバーハングを245mm延長したロングの新設が見どころで、日本では4気筒が姿を消し、V6のみの設定となった。ちなみに欧州では、全長がロングより200mm以上長いエクストラロングや、ルーフテント付きの「FUN」も用意される。
ホイールベースがW638より200mmも長いのに、最小回転半径が0.4m小さくなったのは、言うまでもなくFR化のメリット。また、多人数乗車や積載時に不満が聞かれたトラクション不足の問題も、FFからFRへの転換で解消された。
なお、3列シートのメルセデスとしてはRクラスも存在を主張するが、こちらMクラスを母体とするツアラーで、低くスタイリッシュな容姿が特徴。居住性、積載性の観点からみれば、実用第一主義のVクラスがメルセデスの圧倒的ナンバーワンだ。
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